とあるハンターの外部記憶

かりびと見習い。釣り人的な。

サーマルカメラ Seek Thermal Compact XRは狩猟に使えるか?

(※この記事自体は昨年からアップしようと思って途中まで書いたまま放置してあったものですので、記事の内容のほとんどは2017年年度の猟期時点くらいで試した内容です。)
 タイトルの通りの物を導入してみました。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00Y2QO79I/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=B00Y2QO79I&linkCode=as2&tag=coewsqzql-22&linkId=8e58bd98d4ae9fc3a68663e2382e39d7

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本体の幅は4cmちょっとで重さも実測で14.6gと軽いです。
これを USB OTG機能が付いたスマホに取り付けて、専用アプリをインストールして使用します。

私はAndroid搭載スマホでかつ MicroUSBポートを持つ端末を使用しているのでコネクタの形はMicroUSBになっていますが、iPhone用などは端子の形が違う様です。
特にAndroid搭載スマホの方は自分のスマホのUSBコネクタの規格と自分のスマホにUSB OTG機能があるかどうかは各スマホのメーカに聞いてから購入してください。

まだ使い込んでるとは言えず、何度か利用した程度のテスト段階ですから、長く使うともう少し見解が変わるかもしれませんが、現状の結論としては、サーマルカメラ製品全体ではなくこの「Seek Thermal Compact XR」に関して見ると、少し使いどころや使い方が難しいというところです。

ただし、下の方にも書いていますが、価格が下がったり解像度が上がるなど製品として完成してくれば非常に有用で将来性があります。

まず、結論として、個々人によって抱く印象や用途は違うと思いますので「使えない」とは言いきりませんが
「買ってすぐに簡単に(昼間に)鹿、猪、熊等が見えるようになるわけではない」
ということです。

家電感覚で昼間にお手軽に動物を探したい人からすれば「ゴミ」ですし、後述のように使い方を工夫できる人なら「有用」という感じです。

家電感覚で使いたいお手軽組の方も解像度が今の4倍くらい上がって、数倍の望遠もついて、さらに防水防塵のものが出ればならかなり使い勝手は上がるかと思いますが、現状のこの製品に関しては様々な要因から、使用には工夫が必要であり、環境や状況が一定しない自然の中で製品の特性を知って上手に使う工夫が必要かと思いました。

ちなみに環境が安定している家の中で配管の漏れとかを見るなら充分に家電感覚でお手軽に使用可能です。
こういう用途では結構面白いし便利だと思います。

結論は書いたので導入の経緯や徒然をダラダラと書いていきます。

そもそも買ってみようと思ったのは、
「初心者かつ初めての狩猟であり、動物の探索技術が大幅に不足しているのと、猟場候補の下見での能力の足りなさを科学技術で多少はカバーできないものか?」

という理由からです。
このように安直に考えて試験的に導入して見たのがSeek Thermal Compact XRです。

導入費用は約2万5千円ほどでした。
原資としては新銃のお値段を安く済ませたところから出ています。
XRと無印の違いは倍率や視野です。
XRは倍率2倍。無印は等倍です。

購入前にはアメリカのamazon.comの評価やYoutubeでの動画などを参考に検討した感じだと、

「うーん、ネットで調べた感じだと、現状のこの価格とスペックでは必要な能力に足りないかもなぁ。使えるかなぁ?」

「とりあえず最新技術は使ってみないとわからない。今後の同様の技術の参考にとりあえず買ってみよう」

という感じでした。

事前にかなり調べたので、お値段やグレードから考えて、これがあればもうバッチリ!というのは全くありません。

最後は、

「日の出前の薄暗い中で車内や林道から周辺をCompact XRで見回して、山に入る前に熊とかがいるのが事前にわかることもあればいいな。まあ、PCにLinuxを入れてつないでも遊べる感じだし・・・・」

くらいでポチっています。

最初から防水防塵かつ、数倍の望遠があり、現行品としては比較的解像度が高いFLIR Scout II 640とかを買えればいいんですが、何せまだ50万円とかします。
5万円じゃありません、50万円です。

というわけで、ご予算的に現時点でその20分の1ほどで買えるこちらに。

Seek Thermal Compact XRのXRはサーモグラフィの素子の解像度は無印と同じですが、XRの方は2倍の光学レンズがついており、何も遮るものがない見通し距離なら2000feet(約550メートル)くらいまでは検知"できる"というのが、売りっぽいですが「一体、それが何なのか?」を現場で識別するにはもっとずっと短い距離でないと実用にならないと思います。

ちなみに夜間の直線距離で65メートルくらい(障害物なし)では人間は、形状などから人が歩いているのがわかるという感じで識別できました。
この感じだと恐らくシカなどの大型のものも識別できるのではないでしょうか。

Compact XRは倍率が上がった分、ただでさえ狭い視野も20度くらいになり、部屋の中とか近距離を見るのは比較的苦手な感じです。

サーモグラフィでお値段がググーンと高い製品はこの視野角とか解像度とか光学倍率とか対象のスキャン速度等を同時に実現しています。

勉強不足で詳しくは知りませんが、サーモグラフィはゲルマニウムレンズ等の熱を通す特殊なレンズを使わないとダメらしく、普通の望遠レンズを通してもきちんと熱を見れないっぽいです。
ですから、サーモグラフィ用の倍率がより高くお値段もお高いレンズがついたものを買うと、素子等の性能と相乗してお値段もグーンと上がるという仕組みとなっているようです。

ただ、現状は高性能のものはまだ高価ですが、過去から現在まで半導体を使った製品の多くがそうであったように(前述の特殊なレンズは別にして)、熱を感知して処理する素子部分に関してのみで言うと、だいたい1年で性能は倍になり1年前と同等の性能なら価格は半額になるというコースを辿るのではないかと思いますので、あと5年とか経つと、(元が軍用に使われる技術なので)何か規制が入らない限りはかなりお手軽なお値段で高性能なものが登場するのではないでしょうか。

もし数が売れるスマホなんかに搭載されると、さら加速度的に安くなると思います。
ネックはFLIR技術は軍事利用がしやすいため、その点で民生品は規制が入ってるのかもと感じます。
これまでのICT技術の発展速度から考えると民生用への技術の転用速度と価格下落が遅いように見えるのは何か制限があるからなのかもしれません。

ここからは、Seek Thermal Compact XR(以下、Compact XR)の実際の使用感を書いていきます。
使用環境(スマホ)はSHARP SH-M04でAndroid6.01、USB-OTG機能があります。

まず、外(街中でなく、山の中)で使うならUSBの延長ケーブルがないと使いづらいです。木や草があると、その向こう側は見えにくくなるためCompact XRがついた状態のスマホを腕を伸ばしたりして写すことになりますが、画面も一緒に体から離れることになりますので見づらくなります。
見通しできる場所や街中であれば特に本体と一体になっていても問題ないです。

とりあえず、購入したCompact XRはAndroid用なので1.5mのマイクロUSB延長データ通信ケーブルを追加で買いました。片方がMicroUSBのオス、片方が同、メスになっているタイプです。
これで毎回、スマホと一緒に持ちあげずに何かの陰からカメラだけ出して周辺を見ることも可能になりました。

SH-M04の場合、マイクロUSBコネクタが下側についているので、スマホの画面を回転させてマイクロUSBコネクタが上に来るように手持ちすれば、より使いやすくなります。

Compact XRはフレームレートが9 Hzしかないので、あまりに動きが早い対象物にはついていけません。より正確に温度を見るには対象がこのフレームレートでも追いかけられる程度の動きである必要があります。

これがCompact Proになると解像度も上がり、フレームレートも15Hzになるので、この問題が少し減りますが、お値段は日本で買う場合は2~3倍くらいになります。
北米の定価なら299USドルと499USドルなので1.7倍差くらいです。

次に実際、どのような状態で温度が見れるのかという点ですが。
人間の目には全く何も見えない真っ暗闇の中でも人間や冬季の暖房器具など周辺の温度とは明らかに違っている「わかりやすい」温度差を持っている対象に関しては丸見えです。

雨戸を閉めた夜の部屋で照明を完全に消して、人間の目では真の闇に近い状態の真っ暗闇であっても、その対象物の温度が周辺と僅かでも違った温度であればうっすらとした形状が見れます。

例えば数メートル離れた冷蔵庫とかも放熱の影響などでなんとなく四角い形状が見え、冷凍庫部分だけが冷蔵庫の他の部分よりさらに冷たいとかもわかります。

人間の場合はシャツ等を着ていても、ある程度透けて温度がわかります(シャツが体温で温まっているため)。
ソファなど温度を通さない障害物の陰などにいる部分は見えません。
つまり、山などで木や岩の陰になっている部分は見えません。

金属やコンクリートなどより温度を通しやすい素材で素材の反対側からの熱が伝わってきてるものに関しては、その伝導してきてる熱は見られます(なのでコンクリート壁の中の配管の水漏れなども見れる可能性がある)

この後、昼の山の中でも使ってみました。
ところが、自然環境の昼間に使うとなかなかこうはいきません。

気温10度くらい、距離10~20メートルくらい先の日当たりが良い山の地面部分を見てましたが、日光で地面や石等が温められていており、日が当たる部分は周辺より高い温度で検知されますから、あっちこっちが白やオレンジなどの高い温度として表示されてしまいます。
これは考えてみると、サーマルカメラの仕組み上当たり前といえば当たり前なのですが、 購入する前はそれほど自然の物が温められているというところまで頭が回りませんでした。

当然、その周辺に動かない動物がいても区別が付きにくいというか、はっきり言って今の解像度ではほぼわかりません。

この辺でSeek Thermal Compact XRの解像度が問題になってきます。
ちなみにSeek Thermal CompactのノーマルとXRのサーマルセンサーの解像度は206 x 156(pixel?)、Compact PROは320x240(pixel?)です。
周辺が似たような温度でも微妙に温度差はありますから、熱を検知する解像度が高ければ、輪郭などで区別が付くかと思います。

実際、極端な話で、米軍が使ってるような最新高性能軍用のFLIR装置だと、解像度が高いので多少温度差があれば、距離があっても輪郭がくっきりはっきり見えるようです。
米軍仕様ほど解像度が高くなくても今の何倍かの解像度になれば、実用になりそうだなと思わせてくれます。

逆にはっきり言ってしまうと、Compact PROとCompact XRのくらいの性能、解像度だと、家電感覚で狩猟に使おうとしても実用としては微妙ということです。

しかし、Seek Thermal Compact XRでも、夜間や日の出直後の早朝や、雪が積もった状態、地面に日光があまり当たっておらず地面が冷えてる日陰な)などであれば、肉眼では認識が難しい状況でも山の中に周辺より温度が高い対象物があれば識別できる可能性が高いと思います。

日光で木や地面等が温められない夜間の猟場探索でも威力を発揮する可能性が高いです。
ライトをつける必要はありませんので、明かりを消して真っ暗にした状態で光が漏れないようにフードでもかぶってスマホの画面だけ見ていれば、夜目が効く動物以外からはこちらも見えません(風向き次第では音や臭いでバレると思いますが)。

Seek Thermal Compact XRはスマホのUSBポートに直付けもできますが、データ通信対応のMicroUSB延長ケーブルを使うと、延長ケーブル経由で使えます。海外だと銃にマウントできるアダプタを3Dプリンタなどで自作してる人もいるようです。

猟場の下見に持って行った時も、延長ケーブルの先にこのSeek Thermal Compact XRをつけて周囲を探索するのに使いました。
スマホの画面を見ながらSeek Thermal Compact XRだけ別方向に向けられるので便利です。

話を戻すと、Compact XRでも日の出前など真っ暗な場所や肉眼では一定距離以上は厳しい薄暗い明るさの環境で、かつ、見通せる場所か、軽く草がかかってる程度であれば何か体温を持つそれなりの大きさの動物がいれば見えると思います。
(見晴らしがよい高い場所からなら尚よいでしょうけど)

また、糞や血液などを追跡する場合も、冷たいか暖かいか(古いか、新しいか)はCompact XR越しでわかりますから、暗い場所や時間帯でも、より正確な識別ができるかなと思います。

重要なのはサーマルカメラのポイントして「周りが明るいかどうかや、対象が光ってるかどうかは関係ない」ということです。
光ではなく対象の温度を見るので、雪などが日光を反射して眩しく光っていても(雪ならば)温度が低くて冷たく表示されます。逆に光ってなくても一見冷たそうでも真っ暗闇に置いた物でも温度が高ければ高く表示されます(熱々の土鍋や金属など)。

ここまで極端でなくても、下の写真でもわかるように温度差があれば体温と床程度の温度差でも見えます。
温度チャートは画像左側に表示されています。

長々と文字だけで書きましたが、実際にCompact XRで撮影するとどういう感じに見えるかというと、例えばこの写真のようになります。

これは、フローリングの床に10秒間だけ裸足で立った場所をSeek Thermal Compact XRを繋いだスマホで写したものです(クリックorタップすると拡大されると思います)。

ちなみに、ずっとスマホの画面で見ていると、温まった足跡の部分が放熱して温度が下がっていく様子も見られます。
(※全然関係ないですが、こういうのは子供の夏休みの自由研究などで使うとすんごく面白いと思います。私の頃もあれば欲しかった!)

写真を撮った後に「足跡の横の2つの青黒い点はなんだろう?」と思って床を触ってみたら濡れており、水がはねて水滴が落ちていたということがわかりました。
写真は撮りませんでしたが、水滴を指で伸ばしたところ、伸ばした後が青黒く表示されました。
水滴が垂れていた部分だけ温度が低いので写真のように低く表示されるわけです。

本来は撮影した場所はこの画像でいうと右上あたりに緯度経度で表示されます。

こんな感じで、使い方次第では遊べそうだなと思える機材ですが、昼間の狩猟に使うには、現状ではまだちょっと厳しいかも?ということで、以上、簡単ですがレビュー風味でした。


追記しますと、罠猟の場合は夕暮れから夜間に罠を見回ることもあると思いますので、獲物が背景に溶け込んでいても獲物がサーマルカメラから見える範囲にいたり、地面が一部だけ温まってるように表示されていれば、例え暗闇の中でも罠にかかっていることが少し離れた場所からでもわかると思います。

さらに銃猟でも、一部の地域で始まった有害鳥獣駆除のための夜間銃猟ではこれから将来、サーマルカメラは大活躍していくと思います。